レモンと塩

好きなこといろいろ

天国では海の話を

大学の長い夏休みの終わりに、友達と小さな旅に出た。

二人が好きな映画のように、海を見に行きたくて。私達が乗ったのは水色のベンツではなく、鈍行列車だったけど。


初めて乗る路線の電車が、知らない街をどんどん進んで、帰れない旅のような気持ちになった。
乗り換えの駅で気まぐれに途中下車したら、次の電車は一時間後だった。

海辺の駅へは昼過ぎに着き、お惣菜屋さんで買ったコロッケを食べながら海岸を目指す。
民家の開け放たれた窓から、新学期が始まったばかりで早く帰って来たのであろう、小学生の声が聞こえた。


山を貫く、ひんやり湿った暗いトンネルの先に、白い砂浜と青い海が待っていた。
想像以上に天国めいていて、友達と砂浜に座り「もしかしたら私達、もう死んでるのかも」と笑った。


友達と出会い、あの映画を観たから、あの海へ行った。

この先どんなに美しい海を見たとしても、私にとって、あの日の海に勝るものはない。